リスクオンとリスクオフとは?円高・円安が起きる仕組みをわかりやすく解説

「リスクオン」「リスクオフ」という言葉、FXのニュースや解説でよく見かけるけれど、正直よくわからない——そんな悩みを抱えていませんか。実はこの2つの概念を理解するだけで、なぜ突然円高になるのか、なぜ特定の通貨が急に買われるのかという「相場の大きな流れ」が見えるようになります。

この記事では、FX初心者の方でもわかりやすいように、リスクオン・リスクオフの基本から、円高・円安との関係、実際の相場での判断方法まで体系的に解説します。この知識を身につければ、ニュースを見たときに「今は買い時なのか、様子見すべきなのか」を自分で判断できるようになります。

リスクオン・リスクオフとは?基本の仕組み

まずは「リスクオン」と「リスクオフ」の基本的な意味を押さえましょう。この2つは、世界中の投資家が今どんな心理状態にあるかを表す言葉です。

リスクオンとは「積極的に利益を狙う相場」

リスクオンとは、投資家が積極的にリスクを取って利益を追求する相場環境のことです。経済が好調で先行きに楽観的な見通しが広がっているとき、投資家は「多少のリスクを取ってでも大きなリターンを狙いたい」という心理になります。

リスクオン相場では、以下のような動きが見られます。

  • 株式市場が上昇する(特に新興国株や成長株)
  • 高金利通貨が買われる(豪ドル、NZドル、南アフリカランドなど)
  • 安全資産とされる円やスイスフランが売られる
  • 原油や銅などのコモディティ価格が上昇する

わかりやすく言えば、リスクオンは投資家が「攻めの姿勢」になっている状態です。世界経済が順調に成長しているとき、企業業績が好調なとき、金融緩和で市場にお金が溢れているときなどに発生します。

リスクオフとは「安全資産に逃げる相場」

リスクオフとは、リスクオンとは正反対の状態です。投資家が将来に不安を感じ、リスクの高い資産を手放して安全な資産に逃げ込む相場環境を指します。

リスクオフ相場では、以下のような動きが特徴的です。

  • 株式市場が下落する(特にリスクの高い銘柄から売られる)
  • 安全通貨とされる円・スイスフラン・米ドルが買われる
  • 高金利通貨や新興国通貨が売られる
  • 金(ゴールド)や国債などの安全資産が買われる

リスクオフは投資家が「守りの姿勢」になっている状態です。戦争や紛争の勃発、大規模な金融危機、パンデミックの発生、予想外の経済指標の悪化など、不確実性が高まったときに発生します。

なぜ投資家心理が為替を動かすのか

「投資家の気分で為替が動くなんて、本当にそんな単純な話なの?」と疑問に思うかもしれません。しかし、為替市場は世界最大の金融市場であり、1日の取引高は約7兆ドル(約1,000兆円)にも達します。この巨大な市場を動かしているのは、機関投資家やヘッジファンド、中央銀行といった大口のプレイヤーたちです。

彼らは常に「今、世界経済はどういう状況にあるか」「リスクを取るべきか、避けるべきか」を分析しています。そして、多くの投資家が同じ方向に動くと、その動きが為替レートに反映されるのです。つまり、リスクオン・リスクオフという概念は、世界中の投資家の「総意」を表しているといえます。

重要なのは、この動きには一定のパターンがあるということです。パターンを知っていれば、ニュースを見たときに「これはリスクオフの流れだから円高になりそうだ」と予測できるようになります。

リスクオン・リスクオフで動く通貨の特徴

リスクオン・リスクオフの概念を理解したところで、次は具体的にどの通貨がどう動くのかを見ていきましょう。FXで利益を出すためには、この通貨ごとの特性を把握しておくことが欠かせません。

リスクオン時に買われやすい通貨

リスクオン相場で買われやすいのは、主に以下の特徴を持つ通貨です。

高金利通貨

オーストラリアドル(豪ドル)、ニュージーランドドル(NZドル)、南アフリカランド、トルコリラ、メキシコペソなどが該当します。これらの国は政策金利が高いため、投資家は「円やドルを売って高金利通貨を買い、金利差(スワップポイント)を稼ごう」と考えます。

この取引を「キャリートレード」と呼びます。リスクオン相場では、キャリートレードが活発になるため、高金利通貨は上昇しやすくなります。

資源国通貨

オーストラリア、カナダ、ノルウェーなど、天然資源の輸出が経済の柱となっている国の通貨も、リスクオン時に買われやすい傾向があります。世界経済が好調なときは、原油や鉄鉱石などの需要が増え、資源価格が上昇するためです。

新興国通貨

ブラジルレアル、インドルピー、インドネシアルピアなどの新興国通貨も、リスクオン時に買われやすくなります。成長期待が高い新興国には投資資金が流入しやすく、通貨高につながります。

リスクオフ時に買われやすい通貨

一方、リスクオフ相場で買われる「安全通貨」には、以下のものがあります。

日本円

日本円は世界でもっとも代表的な安全通貨の一つです。日本は世界最大の対外純資産国であり、経常収支も黒字基調が続いています。また、政治的にも安定しているため、有事の際に「とりあえず円を買っておけば安心」という心理が働きます。

スイスフラン

スイスは永世中立国として知られ、政治的・経済的に非常に安定しています。また、スイスの銀行は秘匿性が高いことでも有名で、世界中の富裕層が資産を預けています。このため、スイスフランも伝統的な安全通貨として認識されています。

米ドル

米ドルは基軸通貨としての地位があるため、リスクオフ時に買われることがあります。ただし、米国発の危機(リーマンショックなど)の場合は、米ドルが売られることもあるため、状況に応じた判断が必要です。

通貨ごとの値動き傾向一覧表

各通貨がリスクオン・リスクオフでどう動くかを表にまとめました。

通貨 リスクオン時 リスクオフ時 特徴
日本円(JPY) 売られやすい 買われやすい 代表的な安全通貨
スイスフラン(CHF) 売られやすい 買われやすい 永世中立国の安全通貨
米ドル(USD) 状況による 買われやすい 基軸通貨としての信頼
豪ドル(AUD) 買われやすい 売られやすい 高金利・資源国通貨
NZドル(NZD) 買われやすい 売られやすい 高金利通貨
カナダドル(CAD) 買われやすい 売られやすい 資源国通貨(原油)
南アランド(ZAR) 買われやすい 売られやすい 高金利・新興国通貨
トルコリラ(TRY) 買われやすい 売られやすい 超高金利・高リスク

この表を頭に入れておくと、「リスクオフだから豪ドル円は下がりそうだ」といった予測が立てやすくなります。

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なぜ円高・円安が起きるのか?リスクオン・オフとの関係

FXをやっていると、「有事の円買い」という言葉をよく耳にします。世界で何か大きな事件が起きると、なぜか円が買われて円高になる現象です。これには、いくつかの理由があります。

「有事の円買い」が起きる理由

日本円がリスクオフ時に買われる理由は、主に3つあります。

理由1:世界最大の対外純資産国

日本は約400兆円を超える対外純資産を持つ世界最大の債権国です。これは、日本の企業や投資家が海外に持っている資産から、海外の企業や投資家が日本に持っている資産を差し引いた金額です。この膨大な海外資産があるため、日本は経済的な基盤が安定していると見なされています。

理由2:経常収支の黒字

日本は貿易や投資による収入が支出を上回る「経常収支黒字国」です。これは、日本が外貨を稼ぐ力があることを意味し、通貨の価値を支える要因となっています。

理由3:低金利通貨としてのキャリートレード

日本は長年にわたって超低金利政策を続けてきました。このため、投資家は「円を借りて、高金利通貨に投資する」というキャリートレードを行ってきました。リスクオフになると、このキャリートレードが一斉に解消(巻き戻し)され、円が買い戻されるのです。

円キャリートレードの巻き戻しとは

円キャリートレードの仕組みをもう少し詳しく説明しましょう。

たとえば、日本の金利が0.1%、オーストラリアの金利が4%だとします。投資家は日本で0.1%の金利で円を借り、その円を売ってオーストラリアドルを買い、4%の金利で運用します。金利差の約3.9%が利益になるわけです。

このキャリートレードは、相場が安定しているときは非常に有効な戦略です。しかし、リスクオフ相場になると状況が一変します。

世界的なショックが起きると、投資家は「高金利通貨の価値が下がるかもしれない」「早く円を返済しなければ」と考えます。すると、持っていた豪ドルを売って円を買い戻す動きが一斉に起こります。これが「キャリートレードの巻き戻し」です。

巻き戻しが起きると、円の需要が急増するため、円高が加速します。2008年のリーマンショック時には、この巻き戻しによってドル円が数か月で約40円も円高に動きました。

実際の相場で見るリスクオフ円高の事例

過去の代表的なリスクオフ相場を振り返ってみましょう。

リーマンショック(2008年)

米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、世界的な金融危機が発生しました。ドル円は2008年8月の約110円から、2009年1月には約87円まで急落(円高)しました。約23円、率にして20%以上の円高です。

東日本大震災(2011年)

日本で大地震が起きたにもかかわらず、円高が進行しました。これは「日本企業が海外資産を売却して、復興資金として円に戻すだろう」という思惑から円買いが進んだためです。ドル円は一時76円台まで円高が進み、史上最高値を更新しました。

コロナショック(2020年)

新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界的なリスクオフ相場となりました。ドル円は2020年2月の約112円から、3月には約101円まで下落しました。ただし、その後は米ドルの需要増から持ち直すなど、複雑な動きを見せました。

これらの事例からわかるように、リスクオフ相場では円高が起きやすいというパターンを知っておくことは、FXトレードにおいて非常に重要です。

リスクオン・リスクオフを見極める指標と判断方法

リスクオン・リスクオフの状態を把握するには、いくつかの指標を参考にすると良いでしょう。ここでは、実際のトレードで使える具体的な判断方法を紹介します。

VIX指数(恐怖指数)の活用

VIX指数は、米国のS&P500オプション市場から算出される「市場の不安度」を示す指標です。別名「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家の心理状態を数値化したものと考えてください。

VIX指数の目安は以下の通りです。

VIX指数の水準 市場の状態 為替への影響
10〜15 非常に安定 リスクオン継続
15〜20 通常 中立的
20〜30 やや不安定 リスクオフの兆候
30以上 高い不安 リスクオフ相場
40以上 パニック状態 強いリスクオフ

VIX指数はTradingViewなどのチャートツールで「VIX」と検索すれば簡単に確認できます。急上昇している場合は、リスクオフ相場に備えてポジションを調整することを検討しましょう。

株価指数との相関を見る

株式市場の動向も、リスクオン・オフを判断する重要な材料です。

一般的に、米国のS&P500やナスダック、日本の日経平均株価が上昇しているときはリスクオン、下落しているときはリスクオフと判断できます。特に、世界の株式市場が同時に下落している場合は、強いリスクオフ相場のサインです。

ドル円と日経平均株価には正の相関(同じ方向に動く傾向)があります。日経平均が上昇するとドル円も上昇(円安)、下落するとドル円も下落(円高)しやすいのです。この関係を知っておくと、株式市場の動きから為替の方向性を予測できます。

金利差と債券市場の動き

債券市場の動きも、リスクオン・オフの重要な指標となります。

リスクオフ相場では、投資家は安全な国債に資金を移します。国債が買われると価格が上昇し、利回り(金利)は低下します。特に、米国10年債利回りの低下は、リスクオフのサインとして注目されます。

また、「クレジットスプレッド」と呼ばれる、国債と社債の利回り差も参考になります。リスクオフ時には、企業の信用リスクが意識されて社債が売られ、スプレッドが拡大する傾向があります。

FX初心者がリスクオン・オフ相場で注意すべきこと

リスクオン・リスクオフの概念を理解したところで、実際のトレードでの注意点を確認しておきましょう。

急激な相場転換に備える

リスクオンからリスクオフへの転換は、往々にして突然起こります。予期せぬニュースや事件がきっかけとなり、相場が急変することがあるのです。

特に注意すべきは、以下のようなイベントです。

  • 地政学的リスク(戦争、テロ、軍事衝突)
  • 金融危機(銀行破綻、信用収縮)
  • 自然災害(大地震、パンデミック)
  • 中央銀行のサプライズ発表
  • 要人発言(大統領、財務長官、中央銀行総裁など)

これらのイベントが発生すると、数分から数時間で相場が大きく動くことがあります。「まさか今日こんなことが起きるとは」という事態に備えて、常にストップロス(損切り注文)を設定しておくことが重要です。

ポジション管理とレバレッジの見直し

リスクオフ相場では、ボラティリティ(価格変動幅)が急上昇します。普段は1日50pips程度の値動きの通貨ペアが、200pips、300pipsと動くこともあります。

このため、以下の点に注意してください。

レバレッジを下げる

リスクオフ相場に入ったと感じたら、レバレッジを通常より低めに設定しましょう。普段10倍で取引しているなら、5倍以下に抑えるイメージです。

ポジションサイズを小さくする

ボラティリティが高いときは、同じレバレッジでも損失額が大きくなります。ロット数を減らして、1回の損失が許容範囲内に収まるようにしましょう。

複数ポジションを持ちすぎない

リスクオフ相場では、多くの通貨ペアが同じ方向に動きます。複数のポジションを持っていると、すべてが同時に損失を出す可能性があります。ポジションは絞り込むのが賢明です。

週末・祝日のポジション持ち越しに注意

市場が閉まっている間に重大なニュースが発生すると、週明けに大きな窓(ギャップ)が開くことがあります。リスクが高まっているときは、週末前にポジションを縮小することを検討しましょう。

まとめ

この記事では、リスクオン・リスクオフの基本から、円高・円安との関係、実際のトレードでの活用方法まで解説してきました。重要なポイントを振り返りましょう。

  • リスクオンは投資家が積極的にリスクを取る相場、リスクオフは安全資産に逃げる相場
  • リスクオン時は高金利通貨・資源国通貨が買われ、円・スイスフランが売られる
  • リスクオフ時は円・スイスフラン・米ドルが買われ、高金利通貨が売られる
  • 円高が起きる背景には、日本の対外純資産やキャリートレードの巻き戻しがある
  • VIX指数、株価指数、債券市場の動きからリスクオン・オフを判断できる
  • 相場転換は突然起きるため、常にストップロスを設定しておくことが重要

リスクオン・リスクオフの考え方は、FXだけでなく、株式や債券など他の金融市場を理解する上でも役立ちます。ニュースを見るときに「これはリスクオン要因だ」「これはリスクオフ要因だ」と考える習慣をつけると、相場の大きな流れを掴めるようになります。

まずはVIX指数をチェックする習慣から始めてみてください。市場の「温度感」がわかるようになると、トレードの精度も上がっていくはずです。

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※本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。FX取引にはリスクが伴い、元本を失う可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。